物価高騰による飲食店への影響は?|対策から値上げ成功の具体例まで解説
- 公開日:
- 更新日:
近年の物価上昇は、飲食業の経営に大きな影響を及ぼしています。
原材料費や光熱費、人件費などが高騰し、多くの飲食店が利益の確保に苦慮している状況です。
この厳しい局面を乗り越えるため、多くの店舗が値上げという対策に踏み切っていますが、客離れのリスクも当然伴うというのが現実です。
本記事では、物価高騰が飲食業に与える現状と原因を解説するとともに、値上げを成功させるコツや、コスト削減、ITツール活用といった具体的な対策、さらには成功事例まで詳しく紹介します。

目次
飲食店を襲う物価高騰の現状|倒産件数と主な原因を解説
飲食店を取り巻く環境は、記録的な物価上昇によって極めて厳しい状況にあります。
帝国データバンクの調査によると、2023年度(2023年4月~2024年3月)の「飲食店」倒産は過去最多の802件に達し、前年度から56.0%増加しました。
特に中小企業では、こうした経済状況が直接経営を圧迫していると言えるでしょう。
主な原因としては、まず原油価格の高騰に起因する電気・ガス料金の上昇が挙げられます。
例えば、一般家庭向けの電気料金は2023年6月に大手電力会社で平均約15~39%の値上げが実施されており、これは店舗運営のコストに直結します。
次に、円安の進行が輸入食材の価格を押し上げています。小麦や食用油、肉類といった輸入に頼る食材の仕入れ値が上昇し、これがメニュー価格に転嫁しきれない店舗の利益を圧迫しているのです。
さらに、不安定な国際情勢や天候不順なども食材価格の変動要因となり、経営の予測を困難にしています。
こうした多岐にわたる要因が複雑に絡み合い、多くの飲食店が自助努力だけでは吸収しきれないほどのコスト増に直面しているのが現状です。
約7割が実施済み!飲食店の値上げを成功させる3つのコツ

そんな中、多くの飲食店が物価高騰への対策として価格改定を選択しました。ある調査では約7割の店舗が既に値上げを実施したというデータもあります。
しかし、単純に価格を上げるだけでは顧客離れを招くリスクがあります。
値上げを成功させるためには、顧客の理解を得ながら、店舗の価値を損なわない慎重な進め方が求められます。
ここでは、顧客満足度を維持しつつ、受け入れられやすい値上げを実現するための3つの重要なコツを解説します。
コツ1:お客様が納得する「値上げの理由」を正直に伝える
値上げを実施する際には、その理由を顧客に対して正直かつ丁寧に説明することが大切です。透明性のあるコミュニケーションは、顧客の理解と信頼を得る上で重要な要素となります。昨今の原材料費や光熱費の高騰といった、店舗努力だけでは吸収しきれない外部要因を具体的に伝えることで、顧客の理解と納得を得やすくなります。
例えば、ある調査では「原材料高騰による値上げ」や「人件費増加による値上げ」に対して納得感を示す消費者が多いという結果が出ており、正直な説明が顧客の共感を呼ぶことが分かります。具体的な説明としては、「昨今の原材料費の高騰に伴い、品質維持のため〜」といった形で、なぜ値上げが必要なのかを明確に示すことが効果的です。
一方で、顧客に不信感を与えないためには、値上げの告知方法も重要になります。店内のポップやメニュー表への記載だけでなく、公式ウェブサイトやSNSでの事前案内、または手紙やメールでの丁寧な説明も有効です。大手飲食チェーンでは、値上げ前にウェブサイトやプレスリリースで詳細な理由を説明し、顧客に周知する事例が多く見られます。一方的な価格改定は顧客に不信感を与えかねませんが、誠実なコミュニケーションを心がけることで、店舗への信頼を維持し、応援してもらえる可能性が高まるのです。
コツ2:メニューの価値を高めて満足度を維持・向上させる
価格を改定する際に、単に値段を上げるだけでは顧客離れを引き起こす可能性がありますが、提供するメニューの「質」を高めることで、顧客の満足度を維持、さらには向上させることが可能です。
例えば、普段使用している食材を、より高品質なブランド食材や地元の旬の食材へと変更することで、顧客は値上げ以上の価値を感じやすくなります。
また、料理全体のボリュームを増やす、あるいは彩り豊かな盛り付けに変更するだけでも、視覚的な満足度が高まり、顧客体験の向上につながります。
さらに、メインメニューに加えて、サイドメニューやドリンクをお得なセットとして提供することも有効な手段です。
これによって、顧客は「単品で頼むよりもお得」と感じ、実質的な価格上昇を受け入れやすくなります。
このように、単なる値上げではなく、顧客に「価値の向上」として認識してもらう工夫を凝らすことが、価格改定を成功させるための重要な戦略です。
コツ3:客離れを防ぐために段階的な価格改定を検討する
一度に大幅な値上げを行うと、顧客に与える価格的なインパクトが大きくなり、客離れを引き起こす直接的な原因となる場合があります。こうしたリスクを避けるためには、段階的な価格改定が有効な手段です。
例えば、飲食業界のある事例では、全メニューを一斉に10%値上げするのではなく、まず一部の主力メニューから3〜5%程度の値上げを行い、数ヶ月の期間を空けてから他のメニューも調整していきました。このアプローチにより、顧客が価格変動に慣れる時間的猶予が生まれ、急激な客離れを防ぐことができました。
このように、値上げの幅や対象を慎重に検討し、複数回に分けて実施することで、顧客への影響を最小限に抑えながら、経営状況の改善を図ることが可能になります。
段階的な値上げは、顧客の信頼を維持しつつ、持続可能な経営を実現するための賢明な戦略と言えるでしょう。
値上げだけじゃない!物価高騰を乗り切るための具体的対策5選

物価上昇の局面において、値上げは有効な手段の一つですが、それだけに頼る経営では十分とは言えません。
経営体質そのものを強化し、収益性を改善するため、多角的な視点からの対策も不可欠です。
コスト構造の見直しや業務プロセスの効率化、そして新たな収益源の確保など、値上げ以外の方法を組み合わせることで、厳しい経営環境を乗り切る力をつけることができます。
ここでは、すぐにでも実践可能な5つの具体的な対策を紹介します。
対策1:原価率を抑えるメニュー構成への見直し
物価高騰への対策として、まず着手すべきはメニュー構成の見直しによる原価率の改善です。
例えば、食材の仕入れ値が高騰し続けているにもかかわらず、全てのメニューを以前の価格やレシピのままで提供し続けると、高騰した食材コストが直接的に店舗の利益を圧迫してしまいます。この課題に対処するための有効な手段として、「ABC分析」の活用が挙げられます。
ABC分析とは、メニューの売上高と利益率の両面から分析を行い、それぞれのメニューが店舗の利益にどれだけ貢献しているかを明確にする手法です。
具体的には、「よく売れるが利益率が低いメニュー」や「あまり売れない上に原価が高いメニュー」といった、利益貢献度の低いメニューを特定できます。これらのメニューに対しては、思い切って廃止することも一つの選択肢です。
あるいは、レシピを工夫し、比較的安価な代替食材への切り替えや分量の調整などを行うことで、原価率を下げて継続販売することも検討できます。
同時に、比較的原価が低い旬の食材や地元の食材を積極的に活用した新たな看板メニューを開発し、それを集客の目玉として積極的に販売していくことで、店舗全体の原価率を効果的にコントロールすることが可能になります。
このような戦略的なメニュー構成の見直しは、物価高騰下でも安定した経営を維持するための重要な基盤となります。
対策2:仕入れ先や食材の選び方を工夫してコストを削減
仕入れコストの削減は、利益確保に直結する重要な対策です。長年取引している仕入れ先との関係も大切ですが、現状の仕入れ価格が適正かを確認するために、複数業者からの相見積もりも検討しましょう。新規の業者や異なるルートを開拓することで、より安価で質の良い食材が見つかる可能性があります。
例えば、これまでの仕入れ先が大手業者のみだった場合、地元の生産者や中小の卸売業者から直接仕入れることで、中間コストを削減できるケースもあります。
また、価格が高騰している食材を、品質を落とさずに代替できる他の食材に切り替える工夫も有効です。
例えば、特定のブランド肉が高騰している場合、同等以上の品質を持つ別の産地の肉や、調理法を工夫することで美味しく提供できる別の部位に切り替えることも考えられます。
旬の食材を積極的に使用すれば、コストを抑えつつ季節感のあるメニューを提供できます。旬の食材は供給量が多く安定しているため、価格が比較的安価である上に鮮度も良いため、顧客にとっても魅力的なメニューとなります。
食材ロスを最小限に抑えるための在庫管理の徹底や、発注単位の見直しも、地道ながら効果的なコスト削減策です。食材は適切な量を発注し、古いものから順に使用する「先入れ先出し」を徹底することで、廃棄を減らせます。
さらに、複数の店舗を運営している場合は、共同仕入れを行うことで、ボリュームディスカウントを交渉しやすくなるなど、より大きなコスト削減効果が期待できます。
対策3:ITツール導入で業務を効率化し人件費を最適化
人件費の上昇は飲食店の経営を圧迫する大きな要因であり、これに対応するにはITツールの導入による業務効率化が非常に効果的です。
例えば、顧客が自身のスマートフォンで注文から決済まで完了できるモバイルオーダーシステムを導入することで、ホールスタッフが注文を聞く手間やレジでの会計時間を大幅に削減できます。これにより、少ない人数での店舗運営が可能となり、人件費を抑制できます。
ある調査では、モバイルオーダーシステムの導入により、注文受付や会計業務にかかる時間を最大で約30%削減できたという事例も報告されており、人件費の最適化に大きく貢献することが期待されます。
さらに、予約管理システムやPOSレジから得られるデータを活用することで、将来の来客数を予測する精度が高まります。これにより、ピーク時とアイドル時のスタッフ配置を最適化し、無駄な人件費を削減しつつ、必要なサービス品質を維持することが可能になります。
例えば、過去の販売データや曜日、時間帯ごとの来店傾向を分析することで、必要なスタッフ数を正確に割り出し、シフトを調整できます。
これらのITツールによって業務が効率化されれば、スタッフは注文や会計といったルーティン業務に追われることなく、顧客とのコミュニケーションや料理提供の質向上など、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
結果として、顧客満足度の向上にもつながり、リピーターの獲得や客単価の向上といった形で、店舗全体の収益力強化に貢献してくれるでしょう。
対策4:テイクアウトや通販で新たな収益の柱を構築
店内での飲食サービスにのみ依存する経営モデルは、社会情勢の変動や急な客足の変化に弱く、不安定な側面を持っています。この脆弱性を克服するためには、テイクアウトやデリバリー、通信販売といった中食・外販事業を強化し、新たな収益の柱を確立することが有効な対策となります。
例えば、デリバリープラットフォームへの出店や、独自のテイクアウトメニューを開発することで、店舗への来店が難しい顧客層にも効果的にアプローチが可能です。実際に、大手デリバリーサービスを活用した店舗では、悪天候時や外出自粛期間中でも安定した売上を確保している事例が多く見られます。
さらに、店の看板メニューを冷凍食品として商品化したり、自家製ドレッシングやソースをオンラインショップで販売したりすることで、これまでの商圏を全国へと広げ、より多くの顧客にリーチできる可能性も広がります。
これにより、収益源を多様化し、経営の安定化を図ることができるだけでなく、ブランド認知度の向上にもつながることが期待されます。
対策5:国や自治体の補助金・助成金を積極的に活用
物価高騰の影響を受ける飲食店を支援するため、国や地方自治体は様々な補助金・助成金制度を用意しています。これらの公的支援を積極的に活用することも、経営を安定させるための重要な対策です。
以下に、代表的な3つの制度を紹介します。
①「事業再構築補助金」:新たな事業展開を支援
コロナ禍で売上が減少した事業者が新分野に挑戦する費用を支援するもので、最大1億円が補助される大規模な制度です。
②「小規模事業者持続化補助金」:販路開拓などの取り組みを後押し
ホームページ作成やチラシ制作、店舗改装など、販路開拓や生産性向上に資する取り組みを支援し、最大200万円が補助されます。
③「IT導入補助金」:ITツール導入費用の一部を補助
会計ソフトやPOSレジ、予約システムなどのITツール導入費用の一部を補助し、最大450万円が支給されます。
制度ごとに目的や対象経費、補助率が異なるため、自店の課題解決に合致するものを探す必要があります。これらの情報を効率的に探すには、中小企業庁が運営する「ミラサポplus」や、各自治体のウェブサイトを定期的に確認することが有効です。
申請には事業計画の策定など一定の手間がかかりますが、設備投資や新たな取り組みへの資金的負担を大幅に軽減できる可能性があります。
【事例紹介】価格改定と業務改善で利益アップに成功した飲食店

価格改定は、物価高騰に直面する飲食店が利益を確保するための有効な手段です。しかし、ただ値上げをするだけでは顧客離れのリスクも伴います。
ここでは、価格改定と業務改善を組み合わせることで利益アップに成功した、とある地方の中規模レストランの事例を紹介します。
原材料費の高騰による経営継続の危機に陥っていたこのレストランでは、店舗の看板メニューであるパスタやピザの価格を平均で約10%引き上げるという、大きな決断をします。
しかし、単に価格を上げるのではなく、顧客に納得してもらえるよう様々な工夫を凝らしました。
具体的には、値上げの背景にある原材料費の上昇や、品質維持への強い思いを、店内のポスターやテーブルに置かれたポップ、さらには公式SNSアカウントを通じて丁寧に説明しました。
加えて、値上げに見合う付加価値を提供するため、メニューに使用する野菜を地元の契約農家から仕入れた新鮮な旬の野菜に切り替え、メニュー名を変更して品質の向上をアピールしました。これにより、顧客は「値上げされたが、それ以上に料理の質が向上した」と感じ、価格改定への抵抗感を軽減することに成功しました。
同時に、店舗運営の効率化も推し進めました。特に注力したのは、非接触型オーダーを可能にするモバイルオーダーシステムの導入です。
このシステムにより、顧客は自身のスマートフォンから直接注文し、テーブル会計まで済ませられるようになり、ホールスタッフが注文を聞きに行く手間やレジでの会計業務が大幅に削減されました。結果として、必要とされるホールスタッフの人数が最適化され、人件費の削減にもつながりました。
これらの複合的な施策により、このレストランは客単価を効果的に上昇させ、顧客は値上げ後のメニューに対しても高い満足度を示し、客足が遠のくこともありませんでした。
最終的に、店舗全体の利益率は以前と比べて5%も改善され、厳しい経営環境下でも持続可能な運営を実現しています。
この事例は、単なる値上げだけでなく、顧客への丁寧な説明と価値向上、そしてITツールによる業務改善を組み合わせることで、利益と顧客満足度の両立が可能であることを示しています。
物価高騰下の飲食店経営に関するよくある質問
物価上昇が飲食業の経営を直撃する中、多くの経営者が日々の運営に関する様々な疑問や不安を抱えています。
特に、事業の継続に直結する値上げのタイミングや、コスト削減、公的支援の活用方法については、関心が高いトピックです。
ここでは、物価高騰下における飲食店経営に関して、特によく寄せられる質問をピックアップし、Q&A形式で簡潔に解説します。
Q1. 飲食店の値上げはいつ行うのがベストですか?
A.値上げのタイミングに正解はありませんが、顧客が受け入れやすい時期を選ぶのが賢明です。
メニューブックの刷新や店舗改装、季節限定メニューの導入といった、店に変化があるタイミングは価格改定を自然に行いやすい時です。
また、繁忙期を避け、事前に十分な期間を設けて告知することで、顧客の混乱を最小限に抑えることができます。
Q2. 物価高騰対策に使える補助金や助成金はありますか?
A.はい、活用できる制度が複数あります。
例えば、新たな設備投資や業態転換を支援する「事業再構築補助金」、販路開拓を目的とした「小規模事業者持続化補助金」、業務効率化のための「IT導入補助金」などが代表的です。
各制度で要件や申請時期が異なるため、中小企業庁の「ミラサポplus」や自治体の窓口で最新情報を確認してください。
Q3. 価格改定をお客様にお知らせする際の例文を教えてください。
A.価格改定のお知らせをする際は、誠実さと感謝の気持ちを伝えることが大切です。
以下に例文を紹介します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
平素よりご愛顧いただき誠にありがとうございます。
昨今の原材料費高騰を受け、〇月〇日より一部商品の価格を改定させていただきます。
大変心苦しい決断ではございますが、今後も品質の維持・向上に努めて参りますので、
何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まとめ
物価高騰は、飲食業にとって避けては通れない厳しい経営課題です。
原材料費や光熱費の上昇は利益を直接的に圧迫し、多くの飲食店にとって値上げやコスト削減への対応が急務となっています。一方で、対策を誤れば客離れを招きかねないという難しさも抱えています。
だからこそ重要なのは、自店の現状を正確に把握したうえで、値上げ、メニューの見直し、業務効率化、新たな収益源の確保、公的支援の活用など、複数の選択肢の中から最適な組み合わせを見極め、計画的に実行していくことです。
顧客への丁寧な説明を忘れず、提供価値の向上を意識しながら一歩ずつ取り組んでいくことが、結果として信頼と継続的な来店につながります。
ぜひ本記事を参考に、自店に合った施策を見つけ、この難局を乗り越えていきましょう。


