飲食店の損益分岐点とは?計算方法と黒字化の目安を解説
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飲食店を安定して経営していくためには、「損益分岐点」を理解することが不可欠です。どれだけ売上があったとしても、それ以上にコストがかかっていては、いずれ経営が立ち行かなくなってしまいます。
この記事では、飲食店経営を黒字にするための重要な指標である損益分岐点について、その基本的な意味、具体的な計算方法、そして利益率を高めるためのアプローチまで詳しく解説していきます。

目次
飲食店における損益分岐点とは?
飲食店における損益分岐点とは、売上高と費用が同額になり、利益がゼロになる状態の売上高を指します。この損益分岐点を把握することで、飲食店が赤字にならないために最低限達成すべき売上目標が明確になります。
例えば、毎月の家賃や人件費などの固定費が120万円、食材費などの変動費率が40%の飲食店を仮定した場合、損益分岐点売上高は計算上200万円となります。この数値は、この飲食店が月に200万円以上売り上げれば黒字、下回れば赤字という目安となります。この数字を基準にすることで、売上が伸び悩んだ際にも、どの程度の売上があれば経営を維持できるのかを客観的に判断できます。
損益分岐点は、飲食店経営において目標設定や経営改善を行う上で欠かせない指標と言えます。
損益分岐点の計算に不可欠な2種類の費用

損益分岐点を正しく算出するためには、まず店舗で発生する全ての費用を「固定費」と「変動費」の2種類に分類する必要があります。
この分類が不正確だと、計算結果も実態と乖離してしまい、適切な経営判断ができなくなります。
費用を正しく仕分けることが、正確な損益分岐点を把握するための第一歩です。
自店の支出項目を一つひとつ確認し、どちらの費用に該当するのかを明確にする作業から始めましょう。
1.家賃や人件費など毎月定額でかかる「固定費」
固定費とは、売上の増減に関わらず毎月一定額発生する費用のことを指します。
飲食店における固定費の主な項目としては、以下のようなものがあります。
・店舗の家賃
・正社員や月給制スタッフの人件費
・減価償却費
・リース料
・保険料
・通信費
・清掃費
など
その他、水道光熱費の基本料金もこれに含まれます。
これらの費用は売上がゼロであっても発生するため、飲食店の経営において大きな負担となる可能性があります。
損益分岐点を計算する際には、これらの固定費を正確に洗い出すことが重要です。
2.売上に比例して変動する食材費などの「変動費」
変動費とは、売上高の増減に比例して金額が変動する費用のことを指します。
飲食店の経営において最も代表的な変動費は、食材費やドリンクの仕入れ原価です。これらは、お客様への提供量が増えたり減ったりするにつれて、購入する量が変わり、結果として費用も増減します。
例えば、ある月の売上が好調でたくさんの料理を提供した場合、その分だけ多くの食材を仕入れる必要が生じるため、食材費は増加します。
逆に売上が低迷すれば、仕入れ量を抑えるため食材費も減少します。
その他にも、以下のようなものが変動費として考えられます。
・割り箸やおしぼりといった消耗品費
・クレジットカード決済の際に発生する手数料
・売上に応じて労働時間が変動するアルバイトの人件費
など
損益分岐点を正確に計算するためには、これらの変動費を正確に把握し、売上高に対する割合である「変動費率」を算出することが不可欠です。
変動費率が低ければ低いほど、売上が増えた際に手元に残る利益(限界利益)が大きくなるため、経営の安定性が高まると言えます。
【3ステップで簡単】損益分岐点の計算方法と具体例

飲食店の損益分岐点は、複雑な知識がなくても3つのステップで簡単に計算できます。
先述した通り、まずは店舗の費用を「固定費」と「変動費」に正しく分類し、それぞれの合計額を把握することから始めます。
この作業により、レストランの経営状態を数値で客観的に捉えることが可能になります。
具体的な計算手順とシミュレーションを通じて、自店の損益分岐点を算出してみましょう。
ステップ1:1ヶ月あたりの固定費を合計する
最初に、1ヶ月あたりに発生する固定費をすべて洗い出し、合計額を算出します。
例えば、以下のような場合が想定できます。
30万円(家賃)+ 60万円(正社員人件費)+ 10万円(減価償却費)+ 20万円(その他経費)
= 120万円(固定費)
毎月の支払額が変動しない費用をリストアップし、漏れなく計上しましょう。費用の分類に迷った場合は、売上がゼロでも発生するかどうかを基準に判断するとよいでしょう。
後のステップで変動費率を計算するためにも、費用の分類は正確に行う必要があります。
ステップ2:売上高に占める変動費の割合(変動費率)を算出する
次に、売上高に対する変動費の割合である「変動費率」を求めます。この変動費率が低いほど、売上が増加した際に利益として手元に残る「限界利益」が大きくなり、経営の安定性が高まります。
変動費率は、「変動費率(%)= 変動費 ÷ 売上高 × 100」という計算式で算出されます。
例えば、ある月の売上が300万円で、食材費やドリンク原価、消耗品費などの変動費の合計が120万円だった場合、変動費率は以下のようになります。
120万円 ÷ 300万円 × 100 = 40%
この40%という数値は、売上高の4割が変動費として使われていることを示します。飲食店を経営する上では、この変動費率を常に意識し、削減できる部分はないか、効率化できる部分はないかを検討し続けることが求められます。
変動費率を改善することは、損益分岐点を引き下げ、利益を出しやすい体質へと転換するために不可欠な要素と言えるでしょう。
ステップ3:公式に当てはめて損益分岐点売上高を求める
固定費の合計額と変動費率が算出できたら、最後に公式に当てはめて損益分岐点売上高を求めます。
計算式は「損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)」です。
例えば、固定費が120万円、変動費率が40%の場合は以下のようになります。
120万円 ÷(1-0.4)= 200万円
これは、売上高が200万円を超えれば利益が出始めることを意味します。
また、月々の売上や費用にはばらつきがあるため、過去数ヶ月の平均値を用いて計算すると、より実態に近い数値を把握できます。
過去のデータに基づいて正確な数値を算出することで、現実的な経営目標を設定し、より効果的な戦略を立てることが可能です。
【具体例】月商300万円の居酒屋でシミュレーション
ここでは、具体例として月商300万円の居酒屋の場合を基に損益分岐点を計算します。
①費用を固定費と変動費に分類
固定費:120万円
= 30万円(家賃)+ 60万円(正社員の人件費)+ 10万円(減価償却費)+ 20万円(その他経費)
変動費:140万円
= 120万円(食材費・ドリンク原価)+ 15万円(水道光熱費)+ 5万円(消耗品費)
②変動費率を計算
140万円(変動費)÷ 300万円(売上高)= 約46.7%(変動費率)
③損益分岐点を計算
120万円(固定費)÷(1 – 0.467)= 約225万円
以上のように、この居酒屋は月225万円以上売り上げれば黒字になることが分かります。
こうした計算はエクセルなどの表計算ソフトを使うとより効率的に管理できるでしょう。
自店の経営状況を把握する「損益分岐点比率」の求め方

損益分岐点売上高を算出したら、次に「損益分岐点比率」を計算することで、現在の経営の安全性を評価できます。
この比率は、実際の売上高が損益分岐点をどの程度上回っているかを示す指標であり、数値が低いほど利益が出やすく、経営に余裕がある状態だと判断できます。
個人経営の飲食店であっても、この指標を定期的に確認することで、経営状態を客観的に把握し、早期に改善策を講じることが可能になります。
損益分岐点比率の計算式
損益分岐点比率は、現在の経営の安全性を測るための重要な指標です。
この比率の計算は「損益分岐点比率(%)=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100」という式で行います。
例えば、実際の売上高が300万円で、損益分岐点売上高が225万円だった場合は以下のような計算式になります。
225万円 ÷ 300万円 × 100 = 75%
この数値が100%を下回っていれば利益が出ている状態を示し、数値が低いほど安全性が高いと判断できます。
逆に100%を超えている場合は赤字状態であり、早急な経営改善が必要です。
理想は80%以下!損益分岐点比率から見る経営の安全性
経営の安全性を判断する損益分岐点比率は、どの程度を目指せば良いのでしょうか。
一般的に、この比率が80%以下であれば、利益を確保できている優良な経営状態とされています。
一方、81%から90%の場合は、黒字ではあるものの売上の減少によって赤字に転落する可能性があるため注意が必要です。
さらに、91%以上の状態は、わずかな売上減少でも赤字になる危険な水準であり、経営改善が急務となる状態です。先述した通り、100%を超えている場合は赤字状態です。
定期的にこの比率を確認し、80%以下を維持することを目指すのが理想的な経営と言えます。
利益を増やすために損益分岐点を下げる3つのアプローチ

損益分岐点を下げることは、より少ない売上高で利益を出せるようになることを意味し、利益体質の強化に直結します。
損益分岐点を引き下げるためには、計算式を構成する「固定費」「変動費」「売上高」のいずれかにアプローチする必要があります。
具体的には、固定費を削減する、変動費を抑える、そして売上を伸ばすという3つの方法が考えられます。
これらのアプローチを組み合わせることで、より効果的に収益構造を改善することが可能です。
方法1:家賃交渉や光熱費の基本料金見直しで固定費を削減する
固定費は売上に関わらず毎月必ず発生するため、削減できればそれが直接的に利益改善へつながります。
最も効果が大きいのは家賃の引き下げ交渉ですが、これは契約更新時などの限られたタイミングでのみ可能な場合が多く、交渉が難しい側面もあります。
より着手しやすい方法としては、現在契約している電力会社やガス会社のプランを見直すことで光熱費の基本料金を削減したり、利用していない、あるいは費用対効果の低い不要な保険契約やリース契約を解約したりすることが挙げられます。
例えば、店舗の広さや営業時間に見合わない高額な電気プランから、より小規模な店舗向けの料金体系へ変更することで、基本料金を削減できる場合があります。
また、予約管理システムや顧客管理システムなど、複数のサブスクリプションサービスを利用している場合は、それぞれの費用対効果を評価し、不要なものを整理することも有効な手段です。
方法2:仕入れ先の工夫やフードロス削減で変動費を抑える
変動費、特に原価の中心である食材費を効果的に抑えることは、飲食店の利益率を大きく改善するために不可欠です。
まず、現在の仕入れ先だけでなく、複数の業者から見積もりを取ることで、より有利な条件での仕入れ先を見つけ出すことが可能になります。
例えば、特定の食材を大量に仕入れることで単価を下げるボリュームディスカウントの交渉や、産地から直接仕入れることで中間マージンを削減し、新鮮な食材をリーズナブルな価格で確保することも有効です。
また、メニュー構成を工夫して食材の歩留まりを改善するのも重要なアプローチです。一つの食材を複数のメニューに使い回す「クロスユース」を積極的に導入したり、仕入れた食材を余すことなく使い切るようなレシピ開発を行うことで、廃棄量を減らし、食材費の無駄を省けます。
さらに、過去の販売データや季節ごとの需要を分析し、予約状況に応じて仕入れ量をきめ細かく調整することもフードロス削減につながります。
しかし、コスト削減ばかりに目を向けて品質を落としてしまえば、顧客満足度の低下を招き、結果的に売上減少につながることもあります。コストと品質のバランスを常に慎重に検討し、顧客にとって価値のある商品を提供し続けることが重要です。
方法3:客単価の向上や新メニュー開発で売上を伸ばす
客単価の向上は、顧客一人あたりの購入金額を増やすことで、全体の売上を効果的に伸ばす手法です。
例えば、飲食店の看板メニューに加え、高利益率のサイドメニューやデザート、ドリンクセットを積極的に提案することで、お客様が追加で注文したくなるような魅力的な組み合わせを提供します。
具体的な例としては、「本日のおすすめドリンク」や「デザート付きコース」などが挙げられます。これらの提案は、お客様の満足度を高めつつ、自然な形で客単価を引き上げることにつながります。
さらに、季節限定のメニューやトレンドを取り入れた新メニューの開発も、顧客の興味を引き、来店頻度を高める効果が期待できます。
例えば、旬の食材を使ったパスタや、SNS映えするようなオリジナルドリンクを開発することで、既存顧客のリピートを促し、新たな顧客層の獲得にもつながります。
客単価の向上と新メニュー開発は、売上増加の二つの柱となり、損益分岐点を超える売上を確保しやすくなります。
飲食店の損益分岐点に関するよくある質問
ここでは、飲食店の損益分岐点について経営者から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。
個人店での必要性や、費用の分類、目標利益を達成するための計算方法など、実践的な内容に絞って解説します。
Q. 個人経営の小さな飲食店でも損益分岐点の計算は必要ですか?
A.はい、必要です。
店舗の規模に関わらず、損益分岐点の把握は安定経営の基本です。
どんぶり勘定を防ぎ、赤字にならないための最低売上目標を数値で明確にできます。これにより、日々の経営判断に客観的な根拠が生まれ、計画的な店舗運営が可能になります。
Q. アルバイトの人件費は固定費と変動費のどちらで計算しますか?
A.実態に応じて変動費か固定費に分類します。
一般的に、シフトや労働時間によって給与額が変わるアルバイトの人件費は変動費として扱います。
一方、月給制で毎月給与が固定されている正社員の人件費は固定費です。
両者が混在する場合は、それぞれ分けて計算するのが適切です。
Q. 目標利益を達成するために必要な売上高を計算する方法はありますか?
A.はい、計算できます。
損益分岐点の計算式を応用し、「目標利益達成売上高=(固定費+目標利益)÷(1-変動費率)」で算出します。
この計算式を使うことで、具体的な利益目標を達成するためには、いくらの売上が必要になるのかを明確に設定できます。
まとめ
飲食店の損益分岐点を把握することは、利益と損失の境界線となる売上高を明確にし、どんぶり勘定から脱却するための第一歩です。
費用を固定費と変動費に正しく分類し、計算式に当てはめることで、自店の経営状況を客観的な数値で把握することができます。
算出した損益分岐点や損益分岐点比率をもとに、固定費の削減、変動費の抑制、売上の向上といった具体的な改善策を講じることが、黒字化と安定経営の実現につながります。
定期的に数値を算出し、経営状態を確認する習慣を身につけましょう。


