(*2023年5月時点の情報です)
店舗流通ネットは、店舗を軸とした総合支援事業を多角化するために、2021年2月からオープンイノベーションの募集を開始し、これまでに8社との協業を進めてまいりました。2023年5月には株式会社MILIZEと共同で、飲食業界初となる過去データ不要のAI売上予測システム「AI店舗開発」を開発。新規出店を考える飲食事業者の皆様へ向けたソリューションのひとつとして、サービスの提供を開始しました。
AI店舗開発の誕生にはどのような想いがあったのか。また、オープンイノベーションによる事業展開は、両社にとってどのようなメリットをもたらしたのか。両社の代表にお話を伺いました。
目次
店舗流通ネットとMILIZEの協業経緯
2005年、店舗流通ネットに入社。現在の主軸事業の基礎である飲食店の出退店支援事業に従事し、2012年営業部部長に就任。2017年、常務執行役員就任後に飲食店へ向けた人材紹介事業を立ち上げる。2020年11月、代表取締役へ就任。新たに「内製、協業、M&A」の三本の柱を掲げ、事業ポートフォリオの変革に向け、オープンイノベーション活動などアグレッシブな事業展開を行う
2009年、現在の株式会社MILIZEとなる株式会社AFGを創業。金融業に携わってきた経験を活かし、金融ソフトウェア業界の起業家として活躍。金融におけるAI、ヘッジファンド運用、リスク管理、ファイナンシャルプランニングを中心に幅広い知識を有する。オープンイノベーション活動においては、多業種に対して金融とITを武器に、これまで数多くの企業と協業を行う。また、過去にカレー屋を営んでいた経験もあり、飲食店経営のノウハウも持ち合わせている
――店舗流通ネットとMILIZEが出会ったきっかけを教えてください
当社は「2040年までに100の事業、100人のトップの創出」を掲げ、その達成に向けて積極的にオープンイノベーション活動を展開しています。この取り組みの一環として、オープンイノベーションを推進するプラットフォームに登録し、そこでMILIZEさんからお声がけいただいたことが出会いのきっかけです。
当社はAIとフィンテックの分野を強みとする会社で、AIの分野では、特定の業種に限定せず、さまざまな企業との協業を行っています。私自身、かつてカレー屋を経営していた経験があり、飲食店の出店に関する専門知識を持つ店舗流通ネットさんのような事業に、非常に興味がありました。また、過去には飲食企業のチェーン展開におけるデータ分析に関与したこともあり、店舗流通ネットさんのノウハウと当社のデータ分析を組み合わせることができたら、新たなビジネスが展開できるのではと考え、声をかけさせていただきました。
――初回打ち合わせ時のお互いの印象を教えて下さい
初回の打ち合わせで社長とお話することはあまりないため緊張しましたが、お会いしてみると、戸所社長はとても気さくな方でしたので安心しました。朗らかな表情で、真摯にお話を聞いてくださる姿勢が印象的でした。戸所社長は物事の判断が早く、当社の強みであるAIの分野についてもすぐに理解していただき、「良いもの」として受け入れてくださったので、前向きな雰囲気で話を進めることができました。感覚が鋭く、素早い決断力を持っているところが素晴らしいです。
店舗流通ネットさんは、飲食店の出店支援に限らず、さまざまな業種の出店支援を事業として手掛けてきた実績や、不動産のノウハウを持っています。飲食・不動産・金融が一体となったビジネスを展開している点に、唯一無二の魅力を感じています。
田中社長は、AI分野の知識が乏しい私でもよく理解できるように、どのようなロジックで結果が導き出されるのかを内部構造から丁寧に説明してくださいました。その姿勢を見て、田中社長とならブラックボックス化しない、AIサービスを作り出せるのではないかと感じました。
当社が今後事業を拡大していくにあたり、AI技術は必要な要素のひとつであると考えていました。しかし、自社でAIを開発するには膨大な時間とリソースが必要ですし、成果が出るかどうかも分かりません。この課題の解決策に悩んでいたところMILIZEさんと出会い、手を取り合うことでお互いの事業領域を広げ、さらに事業拡大のスピードを飛躍的に向上させることができるのではと考えました。
――今回の協業を通じてどのようなニーズに応えたかったのでしょうか。また、協業の決め手を教えてください
私が飲食店を経営していた際、出店場所には常に悩まされていました。1店舗目が成功しても、2店舗目が必ずしも成功するとは限らず、失敗するとコストも膨らんでしまいます。コロナ禍以降は特に、いかに失敗せずに店舗展開するかが重要視される傾向にあると感じていました。そのような状況にある飲食店にとって、当社が培ってきたAI技術を活用したサービスを提供することで、一助となりたいという想いがありました。
一方、店舗流通ネットさんは、長きにわたり飲食店の出店支援事業を行ってきたため、さまざまな場所・多様な業種での出店データを持っています。その経験によって蓄積された膨大なデータを活用し、汎用性の高い低価格なAIを使用したサービスをあらゆる飲食事業者の皆様へ提供できるという点が、今回の協業の決め手となったと認識しています。
田中社長が仰っていたように、私たちも出店に悩む飲食事業者への一押しとなる支援を行いたいと感じていました。また、過去にさまざまな飲食店の出店支援を行ってきましたが、一方で、営業中の店舗へのサポートにおいては改善の余地があると感じていました。店舗を出店して終わりではなく、共存・共栄の関係を築きたい。そのためには、開業後も店舗の売上を伸ばすためのソリューションを提供する必要があると考えていました。
今回、MILIZEさんからご提案いただいたAI店舗開発は、まさに当社が解決したかった課題を解決するソリューションでした。両社のノウハウを組み合わせて協力し、共同でプロダクトを開発、販売まで一緒に行えるという点が決め手となり、協業に至りました。
売上予測システム「AI店舗開発」の誕生
――開発にあたり、両社の強みや特性はどのように活かされましたか
データ分析のプロジェクトでは、まず、ご提供いただいたデータを詳細に調査し、欠損や連続性の問題がないかを確認します。その後、データを結合して分析を進めていきます。こうしたデータのモデリングの面において、当社のAI分析の経験が非常に役立ったと考えています。
店舗流通ネットさんは、大手チェーン店をも上回るほどの幅広い業種と長期にわたる計測データを保有しています。そして、自社で保有されている物件において、さまざまな業種の店舗データがとれていることが強みでした。これにより、繁盛する条件と繁盛しない条件、それぞれのデータを取得でき、さまざまなケースで予測が可能なモデルを実現しました。
当社が蓄積してきた店舗の売上データを有効に活用するためには、MILIZEさんのお力が不可欠でした。当社が持つデータは、POSレジなどで店舗の売上集計を行っているわけではないので、データのクレンジングや集計などの作業は非常に大変だったのではないかと思います。
MILIZEさんの専門知識と技術を活かしてデータ精査を徹底的に行うことができたため、当社のデータ資源を最大限に活かせただけではなく、過去の売上データが存在しない場合でも、活用できる仕様を実現できました。これにより、新規の店舗やデータのない地域でも効果的な予測が可能になりました。
――開発段階で注力した点を教えて下さい
精度面は、最も力を注いだポイントです。飲食店出店のプロである店舗流通ネットさんのプロジェクトメンバーや戸所社長のご意見を参考にしながら、両社で密にコミュニケーションを取り、何度もモデルを見直し、数値の精度を向上させるための改善を行いました。
さらに、今回のプロジェクトでは、コロナ禍などの緊急事態も考慮した仕様を導入するために、コロナの影響力に関する分析も行いました。これにより、現状をより正確に反映し、予測の信頼性を高めることができました。とても貴重な体験と分析を経験することができたと感じています。
確かに、精度の向上においては、MILIZEさんのエンジニアの方とお互いが納得するまで何度もディスカッションを行い、改善を重ねていきました。
例えば、コロナ禍においては、すべての店舗で売上が落ち込むわけではなく、一部の店舗が逆に売り上げを伸ばしているケースもありました。これには地域ごとの状況や業種の特性などが関与しているため、単純な一律の予測ではなく、より精緻(セイチ)な予測モデルが求められました。
そこで、私たちの過去の経験から培った目利きや洞察力を組み合わせ、より現実に近しい予測結果を目指しました。
オープンイノベーション事業のメリット・今後の展望
――今回の協業で得られた成果やメリットを教えてください
データの新たな活用方法が生まれ、当社の財産となったことは大きな成果です。従来の売上予測サービスは、精度を高めるために膨大な量の過去の売上データが必要でした。また、既に営業している店舗の将来予測をするものが大半でした。AI店舗開発は、新規出店時の予測ができ、売上データを数多く持たない小規模事業者や独立開業者でさえも利用可能なので、飲食事業者の出店における意思決定に最大限の後押しをする手段が生まれたことを嬉しく思っています。
そして、今回の協業により、当社のデータが飲食業界全体に貢献できるきっかけになったのではないか考えます。MILIZEさんとの協業でなければ成し得ることのできなかったことなので、異なる組織や分野の専門知識と経験を結集することで新たな価値を生み出すことができる、まさにオープンイノベーションと呼ぶに相応しい事例だと感じています。
当社のようなベンチャー企業は、こういった協業の機会があることで、アイデアを活かすことができると感じています。当社が店舗流通ネットさんとの協業を通じて戸所社長にお会いし、AI店舗開発のプロジェクトに参加できたことは、非常に貴重な経験となりました。今後も、オープンイノベーション活動を通じてさまざまな企業にチャンスを与えていってほしいです。
――今後のオープンイノベーションとしてどのような展望を考えているのでしょうか
AI店舗開発がますます成熟して、このシステムが「良い場所」を検索して定義してくれる世界観を実現できるサービスになると良いなと考えています。店舗経営をするにあたっての、「良い場所」とは何かを言語化することは非常に難しいため、当社の売上データだけでなく、さまざまな飲食店がデータを持ち寄ってくれる環境を作り、予測のバリエーションを広げることでこれを叶えていきたいです。
また、不動産オーナーが入居者を募る際に利用することで、適切な賃料を設定したり、長く営業が続けられる業種を選定したりすることができるようになるため、不動産価値の向上や街の活性化にも役立ててもらいたいですね。
データの側面では、個人の属性などをデータ化していき、店舗・不動産・顧客のデータを集めることで、どのような商売もできる仕様にアップグレードしていけると感じています。また、例えばですが、カレー屋を開業する場合、どの場所が最適かをA、B、Cのようにレコメンドしてくれる機能があると便利ですね。そうすることで、場所に悩むことなく最適な選択ができ、気付いていなかった「実は良い場所」を見逃すこともありません。
また、もし最適な場所が特定された場合、不動産の時価評価をカレー屋やうどん屋などの店舗の観点で算出できる、飲食店向けのGoogleマップのようなサービスがあれば良いですね。将来的には、飲食店だけでなく、他の業種でも活用できる仕様にしたいと考えています。
これからもぜひ、協業を重ねていただけると大変嬉しいです。さまざまな産業に新たな可能性をもたらしていきましょう。
今回のオープンイノベーションを通じて、店舗の月商売上を的確に予測できる新たな可能性が広がりました。異なる分野の企業との協業により、ユニークなアイデアと専門知識を結集し、より優れたソリューションを実現できるよう、店舗流通ネットは、これからも積極的なオープンイノベーション活動を展開してまいります。
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