包丁人味平に学ぶ飲食店経営の基礎の基礎『漫画で学ぶ店舗経営・カレー戦争編』

漫画から飲食経営の基礎を学ぶ。「包丁人味平」カレー戦争編は、飲食店経営の基礎である商品開発から、コンセプトづくり、立地選び、オペレーションを意識した店舗設計、人材確保、ターゲットとクチコミ対策、新規客とリピーターを得る施策、価格戦略、増店、チェーン展開という課題を描いた料理漫画の先駆け。現代にも通用する飲食店経営の基礎の基礎とは?カレー戦争の商品開発の流れも紹介します。

毎年1月22日はカレーの日。1982年、昭和57年1月22日に全国の小中学校の給食で、カレーが提供されたことに由来するそうです。
今回は漫画から、飲食店運営の基礎を学ぶといったお話をしたいと思います。

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「包丁人味平」とは?

包丁人味平 〈1巻〉 包丁試し1
包丁人味平」は1973年から1977年にかけて週刊少年ジャンプにて連載された少年漫画です。
料亭の板場を仕切る最上位の板前「花板はないた」を務める父の背中を見て育った主人公の少年『塩見味平しおみあじへい』は、父の高級路線の店とは異なる「大勢の人が楽しめる安くておいしい料理を作る料理人」になるため、洋食屋でコックとして働き始める…。
 
といったストーリーで、現在は1ジャンルとして確立している料理漫画の先駆けであり、「料理人が料理を作って対決する」というスタイルを生み出しました。とはいうものの、序盤から中盤は技術勝負が中心ですが。白糸バラシとか地雷包丁なんてトンデモ技が出てきて面白いけど、今回は割愛します。 

カレー戦争編

今回取り上げるのは「味平」の終盤エピソード『カレー戦争編』。この長編エピソードで初めて料理を完成させ客に振る舞い、その優劣を決めるといった勝負形式が登場します。
また、それまでの旅で技術を高めた味平が、初めて飲食店を出店するエピソードでもあり、商品開発に始まる飲食店運営の一連の流れが描かれています。
 
それでは「カレー戦争編」のエピソードをなぞりながら、飲食店経営の基礎を学んでいきたいと思います。
 

飲食店経営の基礎① 《商品開発》

包丁人味平 〈14巻〉 カレー戦争1
まずは商品開発から 
数々の包丁人たちとの勝負の旅で横浜に流れ着いた味平は、肩代わりをした借金返済のために、金貸しから屋台を借り(もちろん有料)、港の労働者に人気のカレーの屋台を出店することになる。
 
まずは顧客となる肉体労働者のニーズを調べあげ、次の条件を満たす商品の開発を開始する。
  1. 手持ちの資金が少ないため、安くて大量に生産できるメニュー
  2. 簡単に調理が可能、かつ屋台での提供可能なメニュー
  3. 営業場所の客層に売れるメニュー

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Point! 立地が先か商品が先か、いろいろな考えがありますが、今回は出店場所の選択肢が限られていたため、商品開発を優先しています。
なお、借りた屋台がラーメンの屋台であったため、食器は丼です。
居抜き店舗ではよくある光景ですが、味平はこれをそのまま活用し、安くておなかいっぱいになれる「どんぶりカレー」として売り出していきます。
  

現状への固執や妥協をせず、求められるものを提供する

洋食レストランの見習いコック時代、賄い食に作っていた自信作のカレーを港のランチで売り出すが、客からの評判はイマイチ。仲間からは「味が上品すぎる」との指摘を受ける。オフイス街の洋食レストランの味を再現していたため、客層にマッチしていなかったのだ。
味平は尊敬するシェフが、「まずいから金を払わない」といった客に、店の味を捨てて濃い味付けの料理を提供し、クレームを取り下げさせた事を思い出し、客層のニーズに合わせた味付けに改良。するとどんぶりカレーの評判はあがり、売上も順調に伸びていく。
 
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Point!「せっかく作ったカレーだから…」「自分の作ったカレーはうまいからきっと売れるはず」といった事に固執せず、港で働く肉体労働者に求められる“顧客のニーズに合わせた商品”を提供する事に注力した結果が成功を呼んだ、といえるでしょう。
 

飲食店経営の基礎②《コンセプトづくり》

万人に愛される料理を目指す味平は、どんぶりカレーの屋台を町中に移して営業を始める。
町で評判のカレー専門店「インド屋」のオーナーに「味平のカレーは港以外では通用しない」と言われ、味平はインド屋に挑戦状をたたきつけ、目の前でどんぶりカレーの屋台を営業する。
包丁人味平 〈15巻〉 カレー戦争2
店のコンセプトはブレさせない 
 
大型店のインド屋は複数の辛さのカレーを提供し、客層の間口を広げる戦略を展開している。
 
屋台で提供するどんぶりカレーにはこの手法は使えないため、味平は自分のカレー1本で勝負を挑むも結果は惨敗。
 
正月にお雑煮とカレーを併せた「お雑煮カレー」で一時的にインド屋を見返すが、「これは変化球でしかない」と現状の自分のカレーでは勝てない事を自覚し、さらなる研究を継続する。
 
 
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Point!  現実ではここまでこだわる必要はありませんが、自分のお店のコンセプトはブレさせない方が良いでしょう。初めは純粋なラーメン屋だったのに、流行のメニューを次々と出し、居酒屋の様になってしまう店をたまに見かけます。利益が出ていれば問題はないのですが、もともと自分がやりたかったお店は何だったのか、目的を見失ってはいないでしょうか。
戦略的に屋号や業態を転換するのでなければ、商品やお店のコンセプトを崩さず、長く続けることによって固定客を得る事が繁盛の秘訣といえるでしょう。
 

飲食店経営の基礎③《立地と店舗設計》

東京のひばりが丘駅を挟んで、2つの大型デパートが開店を控えるなか、それぞれのデパートが飲食店を充実させる事が客を惹きつける重大な要素と考え、カレーの名店としてインド屋を誘致、もう一方のデパートは味平に営業させる事となり、「ひばりが丘カレー戦争」が勃発する。

立地と店舗内装や設備について

通常、デパートなどの商業施設は飲食店を1フロアに集中させて集客を図るが、味平は飲食フロアへの出店を拒否し、次の理由から自分の提供する商品を考慮して1階のテナントを選ぶ。 
① カレーは大衆食であるから、一流店とは並べないでふらりと入りやすくする。
② インド屋と同じ高級路線の店を構えても勝負にならない
 
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Point!  立地の選定は飲食店にとって重要ですが、必ずしも「駅徒歩1分・1階・路面店!」といった好立地が良いとは限りません。業態、客層によっては周りが見向きもしない立地でもやっていけるのです。ちなみに好立地の物件は、その分ランニングコストも高いのがほとんどである事も考慮しておきましょう。
(デパートの1階には衣料品店や化粧品店が並んでいるが、カレー店が近くに有っていいのだろうか…)
 

店舗設計はオペレーションを意識しよう

味平が考え出した店舗はカウンターのスタンド方式。椅子席にすると客の回転が悪くなるためだ。ちなみに、居心地も提供する居酒屋や喫茶店などはこの逆のスタイルになる。
またカレーの香りで客を呼ぶために出入口を2つにし、客席を増やし、客と料理人が直に接する屋台ならではの手法を取り入れるために、円形のカウンターにする。
 
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Point! 店舗の規模や業態により異なりますが、内装とオペレーションは密接に関係しています。オペレーションを考慮しないで店舗設計を行うと、動線の悪い厨房や席配置により、サービスが行き届かず、お客様に不満を抱かせたり、人員を多く配置することで人件費が膨らんだり、店舗経営に大きく影響します。
また、味平はカレーの香りを外に伝えるために入口を増やすといった手法を使っていますが、前項文末にてちらっと触れた近隣への配慮が求められる場合もあります。上階が住居であるなどの理由により、煙や匂いの強い業態はNGとする物件もあるので注意が必要です。
 

飲食店経営の基礎④《人材確保》

包丁人味平 〈16巻〉 カレー戦争3
店舗の内装は決まったが、味平の前にはまだまだたくさんの問題があった。
 
勝負用のカレーも完成していないが、屋台から店舗に移る事で、これまで以上の客数をさばくのに、調理を担当する料理人が足りない。
 
人材を確保しよう
味平は日本一のラーメン屋になる夢を持っている柳大吉をスカウトする。
 
大吉は長年の屋台で鍛えた調理技術知識、そして同じラーメンを万人にうまいと言わせる『味割り』という特技によって、回転率を上げる事に成功する。
   
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Point! 店舗の規模拡大や店舗数増加と切っても切れない人材問題即戦力を採用11するか、いちから新人を育成するか、方法はさまざまであり、かかるコストも異なります。出店計画に応じた人材確保は、飲食店成長の必須課題といえます。
近年は飲食業界の人手不足が重大化しており、資金があっても出店できない事業者も多い状況です。「主人公の人柄に魅かれて人が集まる」といったことは現実では厳しく、人材の募集条件方法職場環境などを見直すのも一つではないでしょうか。
また、育てた人材が流出しない様に心掛ける事も重要です。
何故なら、失うものはその人材だけではないからです。
 

飲食店経営の基礎⑤《ターゲットとクチコミ》

ついに2つのデパートが開店を迎え、「カレーの店 アジヘイ」は好調な滑り出しを見せるも、三日目には早くも客足が減り始め、それに反してインド屋に向かう客は続々と増えていく。
 

新規客、リピーターを得るためのさらなる商品開発

味平が「味平カレー」のために研究を続けるなか、味平のカレーが辛いと牛乳を混ぜて調節する子供にヒントを得て、子供向けの「ミルクカレー」を売り出す。デパートに来る客層の大半を占める子供連れに対してのアピールは成功。子供達のクチコミによりミルクカレー目当ての家族連れが増え、客足が少し回復する。
 
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Point! ここでは「子供連れの客」をターゲットにした商品開発をし、新たな客層の獲得により、危機を脱します。
昭和当時のクチコミは、現代のSNSや飲食店のレビューサイトといえますが、良い評判を得るにはやはりそれに見合った商品力・業態力が求められます。
串カツ田中」が、居酒屋の大手チェーン店で初の『全店禁煙化』で話題を集め、子供向けのメニュー親子向けのサービスによりファミリー向け居酒屋として認知を広めた様に、新規の客層を発掘する事も飲食店の経営に求められる要因の一つになります。
 
包丁人味平 〈17巻〉 カレー戦争4
カレー将軍『鼻田香作』登場
 
なお、インド屋はしつこく食い下がる味平に困惑。
ついにインド屋のカレーを開発したカレー将軍こと鼻田香作が味平の前に姿を現し、その実力を披露。
 
子供向けメニューのスパカレーを導入し、瞬く間に客を奪い返される味平だった。
 

飲食店経営の基礎⑥《価格戦略と店舗展開》

包丁人味平 〈18巻〉 カレー戦争5
安易な値下げは逆効果
ついに「味平カレー」が完成し、たちまち評判となるものの、テナントの入れ替え期限が到来し「カレーの店 アジヘイ」は閉店。 
 
しかし味平は大量の屋台と仲間の協力により、連日デパートの目の前で屋台を展開し味平カレーを販売する。
 
一方、味平カレーの人気を恐れたインド屋はカレーを大赤字覚悟半額で売り出す。
 
なお、インド屋の値下げ行為は鼻田の怒りを買い、急きょ取りやめとなるが、いきなり通常価格に戻った事で客からの不満が噴出する結果となる。 
 
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Point! この項では味平ではなくインド屋サイドから学んでみます。
商品の値段を下げて集客を図るのは簡単ですが、やりすぎには注意しましょう。現実世界では、ハンバーガーや牛丼のチェーン店で値下げ合戦が繰り広げられた事もありました。一度下げた値段に客が慣れてしまうと、値段を戻すことが難しくなります。もちろん値下げが悪いとはいいませんが、何事も限度が大事です。また商品の値下げはブランドイメージを下げる可能性がある事も注意しましょう。
 

増店、チェーン展開

包丁人味平 〈19巻〉 カレー戦争6
千種のスパイスを嗅ぎ分けられるカレー将軍、鼻田をして「おれのカレーは味平カレーに負けた」と言わしめる味平。
 
鼻田は自身のスパイス研究室にこもり、最高傑作とする魔性のカレー「ブラックカレー」を作り出し、最後の勝負に挑む。
 
味平カレー対ブラックカレー、2大デパートによるひばりが丘カレー戦争は衝撃的な結末を向かえ、その幕を下ろす。
 
 
物語の最後、味平は味平カレーの屋台を皆に託し、一人どこかへと去っていく。
 
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Point! 味平カレーの仕込みは仲間たちの住む長屋で行われ、屋台へ運んだら、あとは盛り付けて販売するだけなので、だれでも商売が成立します。
現実に置き換えると長屋はセントラルキッチン、屋台がチェーン店といった図式になります。
初出店の店舗が成功し、余力が出来たら信頼できるスタッフに店を任せ、新たな店舗開発に進むのもいいでしょう。フランチャイズ化し、自分の商品を幅広く展開していくのもいいでしょう。どんな大手も、始めは1店舗からのスタートなのです。
 

「包丁人味平」に学ぶ飲食店経営の基礎の基礎

「包丁人味平」に学ぶ飲食店経営の基礎の基礎、いかがだったでしょうか。フィクションの世界ですし、もちろんここに書かれている事すべてが正しい訳ではありません。
店の数、商品の数、客の数だけ正解が有ります。しかし忘れてはならないのはどんなことにも基礎、基本が有り、時にそれを振り返る事が重要である、という事なのです。
 
あ、味平は面白いのでみんなで読もうね! カレー戦争の次のエピソードは北海道でラーメン対決だよ!

おまけ 味平カレー戦争 商品開発の流れ

 ブラックカレーとか本編の結末はググるとよく出てきますが、味平カレーについての情報って意外と少ないので、商品開発がどういった流れで行われたか、おさらいも併せてここでちょっと説明します。

■味平カレー戦争 商品開発の流れ

  1. 港の屋台でどんぶりカレーとしてスタート。
    味付けが上品すぎたため、失敗。
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  3. 辛さを増し、肉体労働者向けの味付けに変更。
    値段とボリュームも相まって成功するも、街中では売れないと言われる。
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  5. 味の好みが老若男女、出身地などでバラつきがあり、1種類の味付けでは難しい事に気づく。
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  7. カレー戦争勃発。基本はどんぶりカレーと同じだが、子供向けと3段階の辛さの4パターン。
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  9. 子供向けにミルクを混ぜてミルクカレー。子供にスマッシュヒット。
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  11. 日本人の味、醤油を使い、基本の味平カレー完成。アジヘイ閉店。
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  13. 屋台に戻る。1種類の辛さ(結構辛い)で販売し、6割の客には受け入れられ、また食べたくなると評判に。
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  15. 「辛すぎる」といった人に対するフォローとして福神漬けを添え、薬味によって調節可能とする。より多くに受けるも、もともとの辛さが好きだった層から「味がぼやけてる」と評される。
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  17. 朝鮮漬からヒントを得て、さらに辛さをアップ。福神漬け氷水を添えて完成。
  18. 包丁人味平 カレー編 上 (SHUEISYA HOME REMIX) 包丁人味平 カレー編 下 (SHUEISYA HOME REMIX)
最後が若干強引な気もしますが「かなりの辛口で、薬味で辛さを調節し、を飲む事で辛さが引いて、後味からまた食べたくなる日本人向けのカレー」というのが味平カレーなのです。
≪おわり≫
 
※この記事は、あるライターの熱い熱意で執筆いただいたものの、大人の事情により、ライターの意向に沿えない内容になったため、ご本人の承諾をいただいた上で、店通編集部にて修正を加えさせていただき、公開をさせていただきました。ありがとうございました。

店通編集部

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