【トラブル事例:消防法編】店舗の内見、契約前に確認したい4つのポイント

消防法や建築基準法といった難しい法令について、一級建築施工管理技士がわかりやすく紹介します。トラブルを未然に防ぐためにも、店舗の契約前の物件内見や現地調査の際に確認しなければいけない設備機器や容量、そのほかのチェックポイントについて、内装工事着手前に実際に起きたトラブル事例にあてはめて、紹介します。

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店舗流通ネットの施設部スタッフによる人気連載記事「実録!トラブル対応24時シリーズ」では、営業中の飲食店舗の 火災や落下事故、盗難事件、漏電・漏水・防水・空調・厨房機器といった設備のトラブル、騒音や臭気のトラブル、食中毒の対策と保険対応など、多種多様なトラブルの実録記事をお届けしてきました。


そんな緊急対応を行う施設部スタッフは、日頃からトラブルを未然に防ぐために、契約前の物件内見や現地調査なども行い、設備機器や容量だけではなく、消防法建築基準法についても確認しています。
今回は施設部の一級建築施工管理技士「せんべろじじぃ」より、物件の内見や契約時のチェックポイント内装工事着手前に起こったトラブル事例について紹介します。
 

本当にあった店舗物件のトラブル事例

case:1 ナゾの階段と広がった面積!?

近日中に賃貸借契約を締結したいという店舗物件の内見をすることになりました。
前テナントの美容院は既に退去済で、内装や設備が全て撤去されているスケルトン状態。
手持ちの図面は、
  • 不動産会社からもらった募集図面
  • 前テナントの美容院時の平面図
  • 法務局発行の建物図面

これらから物件概要をまとめると

■物件概要
建物構造:鉄骨造陸屋根3階建て
築年数:50年
前テナント:1階・2階:美容院、3階:従業員休憩所 ※スケルトン工事済み
 
資料を見ながら上階に上がろうと階段に近づくと。
ん? なんと、鉄骨造なのに階段が木製階段。避難の階段が木製?
しかも法務局発行の建物図面と前テナントの平面図の寸法が違っている??
登記上の図面の寸法は、間口3.5m 奥行き10m
前テナントの平面図は、間口3.5m 奥行き12m
 
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どうやら、奥側が増築されている模様。そして、当初は入口にあった階段を撤去し、増築した部分に階段が新設されている様子。
 
物件の大家さんと仲介不動産会社に確認したところ、その状況を知らないという。大家さんは3年前に美容院が営業している状態でこの物件を購入しており、その際、確認申請関係書類や竣工図などの図面もなく、増築関係の説明もなかったとのこと。
 
ひととおり物件内部を確認したところ、以下の問題点が明らかに。
1. 増築されているがその確認申請が適正にされているか不明。
2. 階段が木製階段であり、竪穴たてあな*1が不燃で区画されていない。
3. 収容人員が10人/フロアを超えるため避難器具が必要だが、設置されていない。
4. 3階以上を特定用途*2で使用する場合、自動火災報知設備が必要だが、設置されていない。

この問題を全てクリアするにはかなり高額な費用がかかってしまうため、賃貸借契約を断念することにしました。
賃貸借契約前だったので、借りるテナント側はとしては「なかったこと」で終わりましたが、建物を所有している大家さんは……。建物の歴史資料は大事!それがない場合は、何か契約行為を行う前に一級建築士などの専門知識をもった第三者の確認が必須です!
 

cace:2 5階建一括借りで、営業できるのは1階・2階だけ!?

居酒屋の居抜き物件*3の賃貸借契約を終え、工事の段取りをすることになりました。
この物件は賃貸借契約締結前にも内見しており、前テナントが使っていた電気・空調換気・給排水などの設備機器、容量も問題ありませんでした。
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■物件概要
建物構造:鉄骨造陸屋根5階建て
築年数:37年
前テナント:1階・2階・3階 居酒屋、4階・5階 従業員休憩所、事務室(一括借り)
 
前テナントと同様に、1階~3階を居酒屋として営業する計画。
さあ工事を始めて早くオープンしよう!と進みだそうとする矢先、無知ゆえに予測してなかったトラブルが発生。それは…3階が飲食店として使えない!!
 
内見時、電気や空調などの設備は確認したものの、前テナントが3階まで居酒屋で営業していたため、われわれも問題なく営業ができると思い込んでおり、建物の防災設備については全く確認していなかった。

実はこの物件、特定一階段等防火対象物だが自動火災報知設備が設置されておらず、3階以上を特定用途で使用することができない建物。

特定一階段等防火対象物とくていいちかいだんとうぼうかたいしょうぶつとは
不特定多数の人に利用され、避難階(直接地上へ出られる階)とは違う階(1階、2階以外)に特定用途が存在している建物で、避難階以外の階から、避難階に直通する階段が2つ以上造られていない建造物のこと。
 
これが判明してすぐに大家さんに掛け合いましたが、「どう使用するかは借主次第なので必要な設備があれば借主の負担で設置してください」との回答で交渉決裂。必要な防災設備の改修見積を取得したところ約300万円。結果、3階以上は倉庫と休憩室で使用し飲食店としては1階・2階のみでオープン。家賃と売上とのバランスが……涙。

無知と思い込みから派生したこのトラブル。前のテナントは消防署への手続きをせずに営業していたのですね。高い授業料でした。
  

ケース事例から学ぶ『物件を契約する際の注意ポイント!』

2つの事例を紹介させていただきましたが、どちらのケースも解決をするためには多額の費用が発生してしまいます。これを未然に防ぐための注意すべきポイントをまとめました。
 

①図面の確認

建物には必ず図面があります。まずはそれを入手しましょう!
 
■竣工図
竣工図と契約をしようとしている区画とで何かしら違いがあったら要注意です。
変更に気が付きにくいポイントは
  • 竣工図にある壁が一部なくなっている
  • 竣工図にはサッシがあるけどなくなっている
  • 竣工図ではドライエリア*4なのに屋根が造られ客席になっている

そういった場面があれば、必ず大家さんか管理会社に確認しましょう。
 
■前テナント平面図
前テナントが退去し居抜きであったり、スケルトンであったり、物件によって状態はさまざまですが、前テナントが工事した平面図が必ずあります。特に居抜きで契約する場合は必ず入手しましょう!いずれも管理会社や大家さんが持っているはずです。
展開図や床伏図、天井伏図なども、後々の改装や修繕のときに必要になることがありますので用意してもらいましょう。
 

②設備関係の点検書類

建物運営上、法律で実施が義務付けられている点検業務があります。
消防設備点検、建築設備定期報告などなど。
これらの点検結果報告書は必ず保管されていますので、大家さんや管理会社にお願いして確認させてもらいましょう!
逆に、このような法定点検の報告書がない場合、建物の管理状況に不安が出てきます。内装工事の計画段階で行う消防署との事前協議などで問題が発生する可能性がありますので、報告書がない場合はその理由を確認しましょう。
 

③内見時の排気設備確認ポイント!

ひとことで飲食店と言っても、さまざまなジャンルの業態がありますが、その業態によって設備の使用容量が変わってきます。
焼肉屋さんであれば居酒屋さんに比べて煙が店内に多く発生します。それを外に出すために排気設備が必要になってきますが、その排気設備が適正に取り付けられるかの確認が必要です。
 
例えば、こういったことが確認事項として挙げられます。

内見時の排気設備確認ポイント 一例
・排気ファンを設置するスペースがあるか
・ダクトを取り付けるルートがあるか
・外壁に穴をあける必要があるか
 
また個室業態の営業を考える場合、空調設備をどのように計画するかも一つのポイントです。空調設備がどの程度の馬力で、何台設置できるかも建物の状況に関わってきます。内見時は電気の容量や屋上の状況、建物外周の状況も確認しましょう!
 

④工事発注時の注意ポイント

工事会社とのトラブルを未然に防ぐため、発注時にいただく「見積もり」にも注意すべきポイントがあります。
お店を出すとき、やはり工事金額は圧縮したいと考えます。ただ「安い」という理由だけで工事会社を決めると、当初の工程通りに工事が終わらなかったり、びっくりするような追加金額の請求がきたり、というケースがあります。
 
工事会社が出してくる見積はその工事に必要な内容が盛り込まれています。もちろん造作や設備工事に関しては全て記載があるはずですが、それ以外に必要な項目、関係省庁への打合せや届出産業廃棄物の適正処分など法律に絡む部分の対応費近隣への対応費などがあります。 
 
実はこれをやらない工事会社や、やることを知らない工事会社は見積金額が安い場合があります。特に最近、日本の法令を理解していない外国系の工事会社が増えてきており、コンプライアンスという部分での認識が違うが故に、諸手続きをやらずに工事を進めるケースがあります。

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このように、ただただ金額が安いという理由で工事会社を選ぶのは非常に危険です。複数の会社から見積を取得し、項目を比較して適正な内容を理解してから価格の交渉を行ってみてはいかがでしょうか?
 
ちなみに、工事を請ける場合は建設業の資格が必要です。無資格の場合は税込で500万円未満までの範囲しか工事をすることができません。工事会社の資格の有無の確認もしましょう!
もし、店舗の工事や設備のことでお困りでしたら、店舗流通ネットの施設部までご相談ください。

せんべろじじぃ

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*1:竪穴とは:階段室など、複数の階を垂直方向に連続する防火区画

*2:特定用途とは:消防法施行令別表第一の区分の中で「1項~4項、5項(イ)、6項、9項(イ)、16項(イ)、16項の2」に該当する用途

*3:居抜き物件とは:前テナントが使っていた設備や造作がそのまま残っている状態の物件

*4:ドライエリアとは:地下に外気と採光を取り込むためのスペース