【ハラール特集・後編】ハラール認証は本当に必要?ここが変だよ日本のハラール認証

飲食店でハラールの対応をするにはどうすれば良いでしょうか? おいしいハラール料理を作れるようになるには、どのくらいの期間が必要なのか? ハラルフードとハラールの文化、ハラールの提供で重要なこと、飲食店がまず始めにできることは何なのか、 ムスリムのオーナーシェフにお話をうかがいました。

前回の記事では、「ハラール」の持つ意味について教えていただきました。
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引き続き、ムスリム(イスラム教徒)のオーナーシェフ、ムジャヘッド・ジャハンギールMDさんにお話をうかがいます。
 
今回は日本のハラール対応、そしてハラール認証に関して感じていることを率直にお答えいただきました。
f:id:tentsu_media:20180219170556j:plain※ムジャヘッド・ジャハンギールMD氏

今のままでは日本のハラールへの正しい認識は、なかなか広がっていかない。

日本のハラールへの意識や、ハラール認証に対して思うことを教えてください

日本におけるハラール認証について感じることは、ハラルマーク(認証)を取ってから飲食店を運営しよう、もしくはハラルフードを提供しようと考える人が多いということです。
 
これは日本人のいいところでもあるんですよ。足元をしっかり固めてから始めよう、というところ。素晴らしく尊敬できる点ではあるのですが、今の状況を考えると、それではなかなかハラールは広がっていきません。
頑張ってお店を作った方も、思ったようにムスリムを集客できずにお店を畳んでしまうこともよくあります。
 
今のお店を始めてから、日本の方から「自分の店でハラールの対応をしたい。どうすれば良いでしょうか?」という相談を年に数件受けます。
そこで最初に必ず教えることは、まずは認証を取得することではなく、しっかりと日本人の口にも合う、おいしいハラール料理を作れるようになってくださいということです。
 

ハラール認証を取るよりも先に、おいしいハラルフード(料理)を提供できるようになることが重要です。

まずはおいしい料理をつくれるようになること。そしてハラール認証を取得するのは最後で良いということでしょうか?

そういうことです。例えばあなたがハラール料理を作りたいと考え、認証機関へ相談に行ったとしましょう。
認証機関の方々はまず始めに、料理に使用する食品の原材料を確認し、使えないもの(ハラールでないもの)に指摘をします。すると、日本でよく使われている加工食品・うま味調味料は豚由来のものが多いので、そういったものが使えなくなってしまうのです。それが使えないとなると、腕のあるシェフでないとハラール料理をおいしく作ることは簡単ではありません。
 
認証機関の方々は、作られているものがハラールであれば認証を与えてくれます。しかしシェフではありませんので、味がおいしいかどうかの判断はしません。よっておいしいハラール料理を作れるかどうかは自分の腕だけが頼りになってしまうのです。
 

おいしいハラール料理を作れるようになるには、どのくらいの期間が必要なのでしょうか?

一般的に言えば、今、自店舗で提供している料理をハラール料理にするためには、6ヵ月~1年の長い期間が必要です。その間、認証機関の方々とやりとりをすることになるので、当然それだけの費用がかかります。
 
そこで僕が思うのは、おいしいハラール料理を作りたいならすでにおいしいハラール料理を作っているシェフの方に教えてもらうのが、時間と手間、費用も少なくて済むということです。
今営業しているハラール料理のお店を何件か食べに行ってリサーチし、おいしいと思ったお店に相談して教えてもらうのがベストだと思います。
  

日本でムスリム向けのお店をつくるために認証を取る方も多いと思うのですが、それに対してはどう思いますか?

今の日本の状況からすると、ムスリムの集客のためにお店を作り、そのためにハラール認証をとるということは、飲食店の経営面から言えば正しくない、「No」だと思います。
 
考え方として、ムスリムのためだけにお店を作るのではなく、日本の方々に健康的なハラール料理を提供するというコンセプトでお店を作ることをおすすめします。ハラール料理を提供してきた結果として、ムスリムも入るようになる。さらにハラール認証を取れば、もっとムスリムが集客できると判断した時に認証を取る。この順番が大事だと思います。
 
ムスリムが来なくてもお店が成り立っていて、十分やっていける状態でないと、日本では飲食店として経営が成り立ちません。
 

ハラルフードの提供を難しく捉えないでほしい。できるところから少しずつ取り入れてもらえたらうれしいです。

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ハラール認証をとっている飲食店でないと、ハラルフードを提供してはいけないと思っている方も多いと思います。

きっとそう思っている人もたくさんいると思います。各メディアでも、ハラルフードを取り上げてくれてはいても、現実として認証に高い金額がかかることや、必須でないことはほとんど取り上げてくれません。きちんと正しいことが伝わっていない部分があると思うので、メディアの方々もハラールをもっと勉強してくれたら、今よりも良くなると思いますね(笑)

 

では、ムスリムのためにハラルフードを用意したいという気持ちのある飲食店が、まず始めにできることは何なのでしょう?

僕は部分的にハラルフードを提供する、という考えでもいいと思います。
規模や頻度にもよりますが、来店するお客様のほとんどが日本人で、たまにしかムスリムが来ない。
そうなってくると、専用の調理場の準備と仕込みが無駄になってしまいます。ハラール対応が浸透していかない一番の要因は、その”準備の手間とコスト”にあります。
 
それだったら、僕のようなハラルフードを作って提供しているお店から、冷凍のハラルフードを購入してお店で出すようにしてください。
僕自身もお店や個人に合わせて、以下のような調理トレーニングを行っています。
・ハラール料理全般を自店舗でトレーニングする、トータルプロデュース。
・ピザやパスタ、ハンバーグなどの真空冷凍食品をお店に卸し、その店舗での提供方法までを教えるオペレーション監修。
実際に四谷(四ツ谷)のカラオケ店では、この手法でピザやカレーなどを、ハラール料理として提供していました。
 
僕は、一品でもハラール対応を提供できるお店、それを支援するお店がどんどん増えていってほしいと思い、日々情報を発信しています。そのような対応をしていかないと、日本にハラルフードを提供していけるお店は一向に増えていきません。もしくは、高い金額を払ってまで提供する必要はないという認識のまま終わってしまいます。
 

ハラールの対応が日本の未来を変える。そのために、日本人、ムスリムがやらなければいけないこととは…

ムジャヘッドさんが、そこまで日本でハラールの認識を広げたいと思う背景には何があるのでしょうか?

もちろん、自分自身が日本に来て食で苦労したことが大きいです。しかしもっと別の大きな理由もあります。
  
現在、ムスリムがアジアだけで8億5千万人以上いると言われています。昨今のアジアの経済成長の影響でムスリムの中間所得層が増えたという背景もあり、僕が来日した頃(1985年頃)と比べて、ムスリムの海外旅行者は何倍にも増えました。2003年と2017年のムスリムの海外旅行者数を比較すると、3.3倍になったというデータもあります。*1
 
実は、ムスリムには日本人が好きな人が多いのです。言われたことを守る、順番を守って並ぶ、約束を果たす。まだまだいっぱいありますが、もともと心の奥底に持っている人間性が、僕から見たらムスリムに似ているところがあると思います。
 
そんなムスリムが日本に行ってみようと思って調べてみると、ハラルフードを提供している店が少ない、さらには礼拝できる場所も少ないという現状。逆に同じ先進国であるアメリカやヨーロッパ圏では、ムスリムを受け入れる環境が整っており、ハラルフードの対応はもちろん、礼拝するためのモスクもたくさんあります。その辺でお祈りを始めても誰も気に留めません。
 
そうなってくると、日本に行くという選択肢が消えてしまい、他の先進国や観光立国へと流れていってしまいます。

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さらに言えば観光面だけではなく、日本が抱えている少子化問題にも影響してきます。
 
高齢になった日本人の面倒を誰が見るのかと考えた時に、将来的に日本人だけでは足りないと思います。そこで近隣諸国から働く人を呼び、人手不足を補う必要が出てきます。アジアにたくさん住んでいるムスリムが働きに来る可能性も大いにあるのですが、彼らはムスリムとして正しい生活ができなければ、日本に来ることができません。
 
ムスリムの生活ができる環境が日本に整っていれば、今以上に日本に来るムスリムの方が増える。それが少子化による人材不足の解決と、経済効果につながると思います。
 
こういった問題は日本人が努力をするだけではなくて、ムスリムも努力をする必要がある。ムスリムである僕たちが結束して、日本にハラールの情報や認識を浸透させていくシステムを作る必要があると思っています。
 
今現在、ハラール関係者のみなさんが言っていることは、解釈の違いによって多少認識がずれていたりと、統一性がありません。それは国による違いもありますので、仕方のないことです。
 
ですが、今の日本には、ハラールやイスラムの正しい情報が伝わっていません。日常的にテロや戦争の情報がメディアによって伝えられていますが、一般の日本の方々は、それがハラールやイスラムだと思ってしまいます。でも本当のハラールやイスラムはそうではない。
これからは正しいハラールやイスラムを伝えていかなければなりません。

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まとめ

認証機関に頼らず、ハラルフードとハラールの文化を普及させていくオーナーシェフにお話を伺いましたが、ハラールに関する知識がまだまだ日本に浸透していない現状を痛感しました。私自身も今回初めて知る情報ばかりでしたが、宗教上の問題ともなると、なかなか一筋縄ではいかない問題であることもよく分かります。
 
しかし、2年後に東京オリンピック・パラリンピックを控え、インバウンド客への意識が高まっている今が、ある意味ハラール認識普及のチャンスなのかもしれません。まずはもっとハラールやイスラムに対しての理解が広がること、これが第一歩かと思い、今回の記事を書かせていただきました。
  
ムジャヘッドさん、インタビューへのご協力、どうもありがとうございました。
 
今回取材にご協力いただいたムジャヘッドさんのお店です↓
■江古田のまちのレストラン プランポーネ
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東京都 練馬区 豊玉上 1-9-5
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*1:ハラールジャパン(http://www.halal.or.jp/halal/halal2.html)、日本政府観光局(JNTO)の資料より、訪日外国人客数を抜粋。イスラム圏をマレーシア・インドネシアとし、訪日人数を合計して2003年と2017年の比較をしました(2003年130,006人、2017年439,852人)(https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf