出店から退店まで伴走する──TRNグループ工事責任者が語る飲食店工事のリアル【後編】

不動産・リース事業本部 副本部長 / TRNグループ工事責任者

麻生 研司

飲食店の工事や設備は、「オープン前に一度きりのもの」ではありません。
物件選びから新装工事、営業中の設備対応、そして退店まで——
経営のあらゆる場面で、工事や設備に関する判断が求められます。

本記事は【前編・後編】の二部構成でお届けしています。
前編では、出店前の新装工事に焦点を当て、動線設計やインフラ確認、そして将来の退店まで見据えた施工の重要性について伺いました。

今回の後編では、営業開始後に起こりやすい設備トラブルや定期メンテナンスの実情、さらに退店時に避けて通れない解体工事・原状回復のリアルについて掘り下げていきます。

営業を止めないために何が必要なのか。そして、最後まで適切に店舗を終えるために、どんな視点を持っておくべきか。 TRNの工事事業に20年携わる麻生副本部長の現場経験をもとに、実務に直結する話をお届けします。

麻生 研司(あそう けんじ)

営業として入社後、店舗統括本部内に施設管理機能を立ち上げ、現在のビルメンテナンス課の基盤を構築。現在は工事企画、BM、法務、営業経理、CSなど複数部署を統括する、「不動産・リース事業本部」の副本部長。これまでに関わった工事案件は大小あわせて100件以上。出店から退店まで、飲食店経営を工事面から支えてきた実務責任者。

3. 営業中|止まると一番困る、設備トラブルとメンテナンス

― 日常〜緊急時のフェーズですが、飲食店に特に多い設備トラブルはどんなものがありますか?

多いのは、漏水ですね。それから近隣への音や匂いの問題、そして電気系統のトラブル。大きいところで言えば火災もそうですね。漏水は本当に多いです。配管の詰まりや劣化など、原因はさまざまですが、ある日突然起きるケースがほとんどです。

一方で、匂いのトラブルは“突発的”というより、設計段階での検討が不十分であったことが原因になっていることもあります。排気能力が足りない、脱臭対策が不十分、そういったことが原因で、オープン当初から近隣と揉めてしまうこともあります。

― 営業に与える影響が一番大きいのは何でしょうか?

やはりこれも漏水です。自店が被害を受ければ、まずその日から営業ができません。逆に下の階へ被害を与えれば、クレームだけでなく賠償問題にも発展してしまいます。突発的な事故で一番深刻なのは火災ですが、発生頻度と営業への影響を考えると、漏水のほうが現実的なリスクと言えますね。

匂いの問題については、対策自体は存在します。脱臭装置やアクアフィルターなど、方法はきちんとある。ただし当然コストはかかります。「保健所にクレームが入ったらすぐ営業停止になるのでは」と心配される方もいますが、実際にはいきなり大きな処分が下ることはほとんどありません。是正勧告や改善指導が基本です。

ただし、近隣との関係は一度悪化すると簡単には戻りません。だからこそ、最初の設計段階での対策が重要になってくるんです。

― 定期メンテナンスをしていれば防げた、と感じたケースはありますか?

たくさんありますよ。例えばグリストラップの清掃や高圧洗浄。これらを定期的に行っていれば、配管詰まりはかなり防げます。詰まれば水が溢れますから、当然営業ができなくなります。最悪の場合、下階への漏水で保険事故にもつながってしまいます。

また、厨房のフードの奥にあるシロッコファン。あれはモーターとベルトがつながって回っています。定期メンテナンスをしないと、ベルトが切れて排気できなくなってしまうケースもありますね。特に地下店舗で炭火を使っている業態の場合は、排気が止まれば一酸化炭素中毒のリスクもあるので、焼肉店などは特に注意が必要です。

空調も同じです。フィルター清掃は店舗でできる作業ですが、それすら行われていないケースもあります。「オープンしてから一度もフィルター掃除をしていません」という店舗も実際にありましたね。5年、10年ノーメンテナンスなんてこともあるんです。フィルターが詰まると、冷房は効いているようで空気が循環しません。結果、内部が凍りつくこともあります。

設備は、壊れてから直すものではなく、壊れる前に守るものです。定期的なメンテナンスを軽視しないことが、飲食店経営においてはとても重要だと思います。

― これまで数多くの工事を手がけてきたからこそ、スムーズに対応できたと感じる場面はありますか?

多くのケースで、経験が生きていると感じます。例えば漏水が起きた場合。現場に行って、「どこから出ているのか」を切り分けられるかどうかが良い対処ができるかどうかの最初の分かれ目です。躯体からなのか、店内設備なのか、二次被害の可能性はあるのか。

こうした見極めは、やはり経験の積み重ねがものをいいます。 工事の現場でも同じです。下地に合わない塗装をしようとしている業者がいれば、「それだと剥がれますよ」と止められるかどうか。図面通りに見えても、素材や施工方法を理解していないと、数年後に不具合が出ますからね。現場では、瞬時の判断が求められます。

その一つひとつが、これまでの積み重ねだと思っています。

4. 退店・業態転換|避けて通れない「解体(スケルトン)工事」

― 退店時の解体工事(スケルトン工事)が必要になるのは、どんな場面でしょうか?

基本的には契約書に則って、というケースがほとんどです。設備の問題というよりも、「スケルトンにして返還すること」という条件が契約書に明記されていることが多いですね。割合で言えば、ほぼ100%に近いと思います。居抜きで入居している場合でも、前テナントの契約条件を承継していることが多く、原則はスケルトン返しです。

一方で最近は、「そのまま居抜きでいいですよ」という大家さんも増えてきました。契約書上は厳しく書いてあっても、甲乙協議のうえで承継が認められるケースもあります。ただし、契約終了や強制退去など、状況によっては必ずスケルトンに戻さなければならない場合もあるので、ゼロではありません。また、火災などが起きた場合は、迷う余地なく一度すべて解体することになります。

退店は感情が動くタイミングでもありますが、実務としては非常に冷静な判断が必要な局面です。

― 解体工事でトラブルになりやすいポイントを教えてください。

一番多いのは、騒音と振動の問題です。特に厨房床はコンクリートで厚みがあるため、解体時には振動と騒音が出ます。同じビルにクリニックが入っている場合は昼間作業ができませんし、上階や周囲に住居があれば夜間も難しい。そうなると、例えば朝の2〜3時間だけ作業する、といった形で小分けに進めることになります。当然、その分時間もコストもかかります。

もう一つ、現場で差が出るのが“厨房床の構造”です。厨房の床は、水が漏れないようにプール状になっていることが多く、場合によっては水が溜まっていることもあります。それを知らずに壊してしまうと、穴が開いた瞬間に水が一気に流れ出し、下階へ漏水することもあります。経験のある業者は、まず小さく穴を開けて水を抜いてから解体しますが、知らない業者は、そのまま壊してしまうんです。実際に何度もそうした現場を見てきました。

解体は「壊す作業」ですが、実際には“壊し方を知っているかどうか”の差が大きい工事と言えますね。

― 原状回復をめぐって貸主ともめてしまうケースは多いのでしょうか?

多いですね。正直に言うと、かなりあります。よくあるのは、「それは原状回復の範囲ではないですよね」という内容を求められるケースです。例えば、もともと古くなっていたシャッターに対して「新品にして返してください」と言われることがあります。汚れや経年劣化まで“新品同等”を求めてくるということです。

しかしそれは修繕の範囲であって、原状回復とは違いますよね、という話を、冷静に整理していきます。以前には、外壁を契約通りに原状回復したら、「そこだけきれいになりすぎたからビル全体を塗りなおしてほしい」と言われたこともありました。そこまでいくと、さすがに首をかしげます。

また、スケルトン返しというのは基本的にコンクリート打ちっぱなしの状態です。多少の凹凸があって当然なのですが、「新築同等に左官して平滑にしろ」と言われたこともありました。大家さん本人というより、指定の内装管理会社が厳しく言ってくることも多く、分電盤が数ミリずれているだけで「図面と違う」と指摘されることもあります。

ただ、そこで感情的になっても解決しません。契約書をベースに、どこまでが原状回復で、どこからが過剰要求なのかを整理し、必要があればきちんと反論します。例えば、「これは廃棄ではなくリユースです」と説明することもありますし、「これは産業廃棄物ではありません」と一つひとつ確認していくこともあります。

一方で、すべてを突っぱねるわけでもありません。塗装のついでに一面追加する程度であれば、スムーズに終わらせた方が良い場面もあります。 押すべきところは押す、引くところは引く。

退店時は、最後の印象を決める大事な局面です。だからこそ、感情ではなく、実務としてきちんと向き合うことが大切だと思っています。

― 解体費用が想定以上に膨らむ原因と、回避する方法はありますか?

一番多いのは、図面がないことですね。居抜き、居抜き、居抜き…と何代も続いている物件だと、正直、壊してみないと内部構造が分からないことが多い。「この壁一枚を剥がせば終わり」と見込んでいても、壊してみたら昔の壁が三重になっていた、なんてこともあります。そうなると、廃材の量は単純に三倍です。100万、200万と、産廃処分費は決して安くありませんし、それが三倍になるということです。

床の中も同じです。竣工図がなければ、どのくらいの深さまでコンクリートが入っているのか、何が埋まっているのか分かりません。「想定より深い」ということは、現場では普通に起こります。正直に言えば、図面がないこと自体はどうしようもありません。だからこそ、事前に「ここから先は追加費用が発生する可能性があります」とお伝えします。

もう一つ大きな要因になるのが、アスベストです。今は解体時に必ず専門の調査士が入り、含有の有無を確認します。行政への報告も必要です。これを想定していないと、費用が上がることになります。時間がない場合は「みなし処理」といって、含有前提で処理することもありますが、その分当然コストは増えます。

レベル1のような高リスク素材が見つかれば、現場の完全封鎖が必要になることもありますね。アスベストは、見た目では判断できません。「経験があるから分かる」というものではなく、必ず検査が必要です。

解体費用が膨らむ原因は、「知らなかった」ことがほとんどです。だから私は、不確定な部分があるなら、その時点で正直にお伝えします。先にリスクを共有する方が、経営判断としては健全ではないでしょうか。

― 最初の内装工事が解体に影響する事例はありますか?

あります。例えば、ALC壁にボンドで内装材を直貼りしているケース。施工自体は早いし、コストも抑えやすいのですが、退店時にそれを剥がすと、ALCが一緒に崩れてしまうことがあります。その結果、想定していなかった補修費用が発生してしまうんです。施工時には見えない部分ですが、解体のときに差が出る代表例と言えますね。

あとは、躯体に許可なく穴を開けてしまっているケースや、共用部分に手を入れているケース。新装時には問題にならなくても、退店時はほぼ確実に原状回復が求められます。最初の工事は、どうしても“オープン”に意識が向きがちできすが、本当は“出口”も同時に考えるべきなんです。

退店はいつか訪れることですので、そのときに困らないよう、最初から少しだけ先を見ておく。それができるかどうかで、最後のコストは大きく変わります。

店舗運営を支えるTRNの工事事業の現在地

― 最後にTRNの工事事業についてお話しを聞かせてください。TRNの事業が拡大していくなか、工事事業はどのように変化をしていったのでしょうか。

以前は特定建設業の許可を取得し、大規模工事も直接請け負っていました。しかし現在はその許可を返還し、事業の立ち位置を見直しています。

今は500万円までの請負工事を中心とし、それ以上の規模については、信頼できる協力業者へ発注する形をとっています。私たちは元請として施工を担うのではなく、企画や設計、監理といったポジションで関わることが増えました。数千万円規模の工事であっても、全体を設計・監理する立場です。

いまの工事企画の役割は、いわば営業サポートに近い存在です。出店を成功させるために、どんな設計や設備が必要なのかを一緒に描く。その上で、最適な体制を組んで実行していきます。もちろん、状況によっては再び「数字を取りにいく部隊」として強化する議論もあります。実際、直近では税引前で1億円近い利益を出した年もありますし、売上ベースでは10億円規模に達したこともあります。

ただ、私たちは単純に数字だけを追っているわけではありません。TRN全体のなかで、どのポジションを担うべきかを考えながら、工事事業の役割を定義しています。

まとめ

飲食店経営において、工事や設備は「オープン前だけの話」ではありません。
物件選びから新装工事、営業中の設備対応、改装、そして退店時の解体まで。すべてのフェーズで、工事や設備は経営と密接につながっています。

TRNグループでは、出店支援・店舗リースにとどまらず、内装工事や設備メンテナンス、解体工事まで、飲食店の時間軸に沿ってサポートしてきました
開業を考えている方、営業中の不安を解消したい方、退店や業態転換を検討している方も、「どこに相談すればいいのか」と迷ったら、まずはご相談ください。

開業から退店まで、幅広いお悩みに伴走できることが、私たちTRNグループの強みです。